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2013.5.31
六月の実

アトリエを始めて、三年が経った。
三回目の記念日が、
四日も過ぎてしまっていたことに、たった今気付く。
大切なその日、
私は白い花を見つめて過ごしていた。
ある一点を見つめ、答えを求め、言葉を探す。
あの頃と、何が変わって、何が変わらないのか。
風になったり、水と流れたり、木に託したり。
その膨らみは、空っぽなまま、
向こう側へと消えていく。
信じているものは、今も変わらない。
紅く色付いたジューンベリーの実と、
五月の終わり、六月の景色。

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2013.5.25
さもない花

ある日、一本の苗木に出会った。
ただの棒のようなその木を、
想いを込めて、土に植えた。
もしかしたら、祈りを込めて。
いつの日か、小さく芽吹いた木には、
花の蕾が生まれた。
その可憐な花の蕾は、
ゆっくりとうつむき、少しずつ膨らみ、静かに咲く。
慎ましいほど、控えめな姿。
たった一日だけの命。
そっと咲いて、静かに終わる。
ただそれだけのこと。
さもないこと。
さもない、花のこと。

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2013.5.24
憧れは君のソックスを緑に染める

憧れは君のソックスを緑に染める
裸足のまま
野山を走る
それがやがて
植物の色に同化して
君に緑のソックスを履かせてしまう
だから、風にアーガイル・チェックの声を託して
草花の黄色や青や赤、そして紫の色を
つま先から足首まで、映し出してもらおうと思う

そんな詩を読みながら、
ふと思い出した曲がある。
少し切ない旋律に、胸の奥がチクリとした。
咲き始めたドクダミ草と、
色付き始めた木苺の実。
私の憧れは、見上げた空の星と共に流れて消えた。
それは、一瞬の出来事。
一生の想い出。

2013.5.20
白い花

白い花が、咲いた。
うつむいたまま、ゆっくりと、静かに咲いた。
私らしさって、何だろう。
バラの棘が指に刺さって、赤い血が流れ、
雨に濡れて、土を触る。
地球は丸く、水平線に繋がっている。
その先に、続いているもの。
永遠に、続いていくこと。

笑うって、素敵なことだよ。
見上げた天井には、白い羽。
帰り道の、白い月。
何かが変わる気がして、大きく呼吸をしてみる。
花一輪が、そっと終わり、
一日が終わる。

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2013.5.15

暑い午後。
日差しが眩しすぎて、少し眠くなる。
窓の外の木々を眺めながら、
雨が恋しいと思う。
窓を開け放ち、言葉は風になる。

空の見える窓があればいい。
その窓をおおきく開けて、そうして
ひたぶるに、こころを虚しくできるなら、
それでいいのである。

好きな人の言葉。

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2013.5.14
ビオラ

間違っても、
曲がっても、
不器用でも、

素直になれなくても、
本当の心は、ちゃんと伝わる。

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2013.5.11
雨の日

カーネーションの花束。
カーネーションのリース。
花、一輪。
それぞれのカタチ。
湿気を含んだ空気と、草の香り。
雨音と、リュートの音色。
こんな日は、髪の毛先に癖が出る。
押さえてもまとまらないから、はねたまま。
ハサミを持つ手に癖があるから、
いつも同じ指に血豆ができる。
左耳のピアスがまた落ちて、
留金はどこかに消えたまま。
甘え方を知らない少女は、そのまま大人になったから、
だから今も甘えられない。
たまった埃をふるい落とし、
柔らかい感覚に触れた時、
遠い空を探したり、
見えない月に祈ったり、
咲きそうで咲かない花のこと。
折れそうで折れない枝のこと。
二度と口にすることのない言葉と、
見えそうで見えない遠い場所。

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2013.5.7
トンネル

金木犀の枝が伸び、
南天の葉は茂り、
ツツジは満開となる。
生い茂った感じが好きだから、剪定はしない。
ドクダミ草が一面に広がり、
雑草と呼ばれる可憐な花が、見え隠れしている。
必要なものと、そうでないもの。
必要とされること、そうでないこと。
父が、家のお庭にモミジのトンネルを作りたいと言った。
いつか私は、そのトンネルをくぐり抜けてみたいと思う。
その先に、どんな景色が広がっていたとしても、
その全てを、受け入れてみようと思う。

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2013.5.5
はなびら

そのひとひらを、
あきることなく、眺めていた。
花びらは、ため息でできている。

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2013.5.4
流れる

ミツバアケビ、上溝桜、サンキライ、
赤い葉の芽吹いた木。
山から届いた植物は、今日も優しい光を放つ。
今必要なものは、
いつもそっとやって来て、
自分の居場所に、静かに佇む。
いつか読んだ本をめくってみたら、
必要な言葉が並んでいた。


私は、時間をかけて、
自分がちゃんと流れ着くようなところへ行こう。
時の流れをおそれずに、
もう充分だと思えるところまで。

だから、私も流れてみよう。

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2013.5.3

五月。
心に風が通る。
何かを一つ飛び越えて、揺るぎない柱を見た。
空気のように存在し、
存在するより、一部でいよう。
限りなく透明に、
静かに呼吸している。
いつか咲く白い花の蕾が、
ゆっくりと、静かに、うつむき始めた。

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