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2013.3.29 |
やさしさ |
その場所には、どんな意味があるのだろう。
どうして、私はそこに行ったのだろう。
ずっとフワフワとしていて、あまりよく覚えていない。
大きな木の幹肌に触れた時の冷たい感覚と、
アセビの花の香り。
清らかな流れの底に沈んでいた、赤い椿の花のこと。
本当の優しさとは
願いを叶えてあげることではない
草花を美しいとするなら
風に揺れるその様を我が身と受け止めること
本当の優しさとは
優しさについて考えることではない
例えあなたがいなくても
世界はただ在るのだと認めてみせること
長いドライブの間、
ずっと聴いていたその声は、とてもやさしかった。
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2013.3.28 |
春の日 |
お隣りの沈丁花の、甘い香りが微かに漂う。
山ツツジの新芽が、昨日よりも膨らんでいる。
クロモジの若葉は銀色に光り、
あの日の二輪草が静かに咲いて、
そしてまた、そっと閉じた。
静かに生きているものを、心から愛おしいと思う。
子どもの頃の夢は、
夢のままで終わっているのかもしれない。
でも、子どもの頃に思い描いていた未来は、
きっと、今の自分の姿だったような気がしている。
人と出会い、誰かと繋がり、
草花に触れ、木々を眺め、土と戯れ、
雨に濡れた昨日も、丸い月を見た今日も、
いつも笑って、時々泣いて、
そんな今が、とても幸せだと感じている。
いつか咲く白い花と、鳥のさえずり。
春の日の一日。
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2013.3.26 |
山の香り |
風に吹かれた大きな山ツツジ。
根付いたアセビの小木。
苔の這った土。
細くすらりと伸びたゼンマイ。
華奢な上溝桜。
可憐なエンレイ草。
まだ姿の見えない白花半鐘蔓。
山の香りに包まれている。
自分に正直でいること。
その澄んだ瞳に映る時、恥じることのない自分でいたい。
嘘のない香りに、思うこと。
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2013.3.25 |
風 |
昨日のことを思い浮かべながら、
山の苗を植え込む。
春の山は、青い香りがした。
スミレ、二輪草、山葵、ふきのとう。
土に触れていると、清々しい気持ちになる。
土で汚れた手が好きで、
働く人の手が好き。
大きな山つつじの枝先が、小さく芽吹いている。
風になびいているような立ち姿。
凛として、景色が透明になる。
アトリエに、春の山がやって来た。
私は、風の吹く方へ。
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2013.3.23 |
ことば |
人は、言葉に傷つき、言葉に救われる。
ことばには、不思議な力がある。
心で感じたことを、
上手く言葉にできないもどかしさとか、
言葉にしたあとに、
なんだか違って感じることとか。
そんなことを繰り返しながら、それでも捜し続けている。
もしかしたら、遠い場所にいるのかもしれないし、
もしかしたら、すぐ目の前に落ちているのかもしれない。
ことばの欠片と、遠い記憶。
一本の苗木に、小さな芽吹きを見た。
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2013.3.20 |
まる |
春の草花を、まるくあしらう。
円に添うように、あしらっていく。
森のようなリース作り。
まるいベーグルと、まるいお皿。
そっと添えたのは、小さな蔓のまる。
今日は、まるい一日。
まるいこと。
角がないこと。
欠けていないこと。
あなたは、まるとしかく、どちらが好きですか。
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2013.3.18 |
メビウスの輪 |
どしゃぶりの雨。
こんな日は、猫がお庭を横切らない。
鳥のさえずりも、聞こえない。
たどり着く場所は、もう決まっているはずなのに、
立ち止まったり、見えなくなったり、
寄り道したり。
まるで、メビウスの輪の中を歩いているみたい。
仕入れた草花で、緑のリースを作る。
春の芽吹きを感じながら、
草の香りを纏いながら、
チェンバロの音色を聴きながら。
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2013.3.17 |
朽ちてなお |
この二ヶ月を、
木蓮とともに過ごしていた。
まだ硬い蕾の姿。
少しずつ膨らみ始めた頃。
ゆっくりと咲き、いつしか満開の時を迎える。
花は萎れ、色はくすみ、花弁は散りゆく。
花の終わりはいつだろう。
朽ちてなお美しいその姿が、愛おしいと感じている。
手のひらからこぼれ落ちていく花の断片。
記憶のかけら。
手を伸ばしても、届かないもの。
明日は月曜日。
きっと、雨が降る。
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2013.3.16 |
チューリップと月 |
113本の花。
113個の笑顔。
113人の旅立ち。
西の空に、細い月が浮かんで見えた。
優しい月に、想いを込める。
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2013.3.12 |
花の輪 |
家の裏のレンゲ畑が、子どもの頃の遊び場だった。
陽が落ちるまで、夢中で遊んだ。
レンゲを摘んで、花を編む。
たくさん編んで、冠に。
小さく編んで、腕輪に。
一輪を巻いて、指輪に。
レンゲの花を見ることが少なくなった今でも、
ふと思い出すことがある。
一面に広がる紫の花の上に寝転びながら、
高い空を眺めていたこと。
どこからが空で、どこまでが空なのか、
ずっと考えていたこと。
草の香りが、大好きだった。
始まりがあり、終わりはない。
永遠であること。
明日は、黄色いミモザの輪を作る。
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2013.3.10 |
薫陶 |
午後から降り始めた雨が、
植えたばかりの苗木に、ゆっくりと染み込んでいく。
一つ一つの出来事が、
心と体に沁みこんでいく。
目で見て感じたこと、
手で触れて感じたこと、
心で感じたこと、
嬉しいことも、辛いことも、
正しくても、間違っていても、
何一つ不必要なものはない。
土に香りが染みこんでいくように、
全ての経験は、ゆっくりと、確実に、自分自身の礎となる。
太陽の光を浴び、雨の恵みを受け、
一本の苗木は、いつしか美しい花を咲かせる。
人も、木も、一生懸命に生きている。
強い風と、雨の音。
そして、軽快なマンドリンの音色を聴いていた。
今日は、そんな一日。
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2013.3.9 |
小さい |
小さなアネモネ。
小さなグラジオラス。
小さなチューリップ。
小さな花。
小さいものに、たまらなく心が惹かれる。
咲き誇るより、蕾が好きで、
華やかな場所よりも、静かな時間が好きで、
太陽よりも、月が好きで、
晴れた日よりも、雨が好きで、
走るよりも、歩いていたくて、
一人でいることが好きで、
でも、誰かにそばにいてほしくて。
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2013.3.7 |
写真展 |
彼女が初めてこの場所を訪れてくれた日、
笑顔で誕生日だと教えてくれた。
その日から、カメラを片手に何度も足を運んでは、
アトリエの風景を丁寧に切り取る姿が、
とても印象的だった。
その瞬間の、空気、色、香り、音、気配。
四季は移ろい、彩る花々は日々変化する。
彼女が描く色。
ファインダーの向こうに見える世界。
一年間の想い。
変わらないこと、変わりゆくこと。
大切に撮りためてくれた素敵な写真の数々が、
四月のアトリエを彩る。
草花と写真 2013年4月20日(土)〜4月26日(金)
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2013.3.6 |
啓蟄 |
木瓜の花が咲いた。
コブシの花は、きっと明日に咲く。
何かに駆り立てられるかのように、土に向かう。
冬の間、すっかり荒れ果てていたお庭。
枯木を片付け、雑草を抜くと、冷たい土が現れた。
夏の蝉の抜け殻と、丸くなった団子虫。
冬ごもりしていた虫たちが、
地上に顔を出す。
ミモザの枯木は、鳥たちの止まり木。
目覚めの悪い檀香梅と、
芽吹き始めたジューンベリー。
そして、一本の苗木を植えた。
まだ、線でしかない木。
いつの日か、枝が伸び、そこには美しい花が咲く。
白く、清らかな花。
どうしても今日、それを植えたかった。
今日でなければいけない気がした。
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2013.3.5 |
Heather |
エリカ。
見渡す限り、一面に広がる紫の絨毯。
どこまでも続く広い空。
遠い国の風景。
遠い日の音楽。
美しいその景色を、いつかこの目で見てみたい。
願いを込めた、エリカのリース。
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2013.3.4 |
チューリップの原種 |
チューリップの原種に出会った。
華奢な姿に見惚れてしまう。
品種改良された強く華やかなチューリップとはちがい、
素朴で儚く、今にも消え入りそうな佇まい。
それでも小さな球根は、大きなものに負けない強さがある。
野生の力がある。
土の中で、何度も再生しては生き続ける。
繊細な姿からは想像もつかない力強さ。
愛おしい花。
われは一つの花を慕えど、どの花なるを知らざれば
心悩む。
われはあらゆる花々を眺めて
一つの心臓をさがす。
ハイネは、そんなことを言った。
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2013.3.3 |
摘み草 |
芽吹きの時。
春を告げるふきのとう。
山の香りと、ほろ苦い味。
冬の間に眠っていた体を静かに目覚めさせるため、
春には苦い山草を食する。
昔の人は、大切なことを自然の中から学んでいた。
広い空に、きらきらの夕陽。
空は、どこまでも繋がっているから。
少しほろ苦い、春の一日。
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2013.3.2 |
raisin |
三月。
重いコートを脱いで、髪を切った。
何かが終わって、何かが始まる。
たとえば、夜の次には朝が来て、
たとえば、冬枯れの木が芽吹いたり、
たとえば、足もとの小さな命に気付くこと、
たとえば、雪が雨に変わる瞬間、
たとえば、音楽に涙して、
たとえば、おはようもおやすみも、
たとえば、白く穏やかな午後に、
たとえば、風が吹くのを待っている。
たとえば、明日世界が終わっても、
後悔のない、今を生きたい。
嘘のない、自分でいたい。
葡萄色のエプロンを買った。
新しい色を身に纏い、
いつもの場所で、花と向き合う。
私には、信じているものがある。
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2013.2.28 |
空へ |
二月最後の日。
とても暖かな午後。
窓を開け放ち、心に風を通す。
ただ直向きに、目の前のことに取り組んだ二月だった。
三月には、たくさんの花束を作る。
たくさんの想いを贈る。
大きな束も、小さな束も、精一杯に心を届ける。
旅立ちがあり、別れがあり、そしてまためぐり合う。
人は複雑な繋がりの中に生きていて、
たとえそれが見えない糸のように細くても、
誰かの中に、確かに存在している。
だからこそ、人は生きられるのだと思う。
紫木蓮の花が、自由に咲き乱れている。
まるで、空に羽ばたく鳥のように、
人もまた、自由なのだ。
自由でありたいと、願う。
私は、ちゃんとここに立っていますか。
私は、しっかりと前を向いて歩けていますか。
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2013.2.27 |
スノードロップ |
エデンの園を追われたアダムとイヴ。
悲しみに暮れ、降りしきる雪に凍えていた二人の前に、
天使が舞い降りてきた。
天使は、雪をスノードロップの花に変え、
悲しみの先にも、必ず春がやって来ることを、そっと告げる。
スノードロップの伝説。
裸だったジューンベリーの枝先が、小さく芽吹いている。
昨日よりも背が伸びたチューリップと、満開の木蓮。
一歩踏み出した彼女は、
たった一週間で、きらきらの笑顔に変わっていた。
どんなに冬が寒くても、
春は、必ずやって来る。
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